牛肉の一頭買いって何?何がいいの?はい、経験者が答えます

知って得する肉知識

こんにちは!シンタロウです。

「一頭買い焼肉」「こだわりの一頭買い」「黒毛和牛一頭買いの店」

こんな触れ込み一度は見たことありますよね?

一頭買いってどんなイメージですか?

おそらくなんか凄そう、とか、プロフェッショナル感があるといったところかと思います。

最初にはっきりと結論を言っておきます。

買う側からすると一頭買いは特に意味ありません。

な、なんだってーー!

驚くのは無理ありません。この一頭買いをしている(おそらくしている)と言っている店のなんと多いことか。

意味がないならなんでやってるの?って話ですよね。

今回の記事では、そんな疑問に答えるべく世間一般に浸透する一頭買いに切り込みます。

ちなみに僕自身現在進行形で1頭買いもしているんですが、この記事は一頭買いを否定するものではありませんので、あしからず・・

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一頭買いとは何ぞや

一頭買いとは言葉通りの、牛一頭丸々買って全てを加工して販売するというものではありません。

牛は屠畜されたあと、加工場で頭や皮、血といった食べることができない部分を処理されます。

その後、骨とお肉だけになった枝肉という状態になります。

それがこちらです。(苦手な方もいるかもなので若干引いて撮影してます)

この状態になったものを市場から仕入れることを一頭買いと言います。

この枝肉で買ったものを骨を抜いてもらっていろんなパーツに分けた状態で仕入れることも一頭買いと言えます。

要は、とにかく牛一頭食べることができる部位全てを枝肉の状態で購入し仕入れることです。

この一頭買いに対して対になる言葉が存在します。

それがパーツ買いです。

パーツ買いとは一頭買いの反対で、指定した部位のみを仕入れることです。

このパーツ買いの最大の特徴は保存状態の良いお肉を自分が欲しいものだけ仕入れることができるということです。

そもそもこの一頭買いという言葉が浸透したのは、真空パックの技術が発達したためです。

真空パックとはお肉を真空状態でパックすることで、鮮度の劣化を防ぐ保存方法です。
お肉を真空パックにすることで、枝肉の状態のものよりも遥かに使用期限を伸ばすことができます。
(最近のドライエイジングビーフというものは肉を真空パックにかけずに骨付きのまま保存し、旨味を増殖させる特殊な技術です。これについては別の記事で紹介します)

真空技術が発達するまで肉屋というものは当然のように各自のお店で牛を枝肉で仕入れて、お店で骨を抜いて精肉に加工していました。

そこで真空パックというものが登場し、中間業者が一手に大量の枝肉を引き受け、次々と捌いて真空パックにかけるようになります。
そして各肉屋は自分の店で枝肉を仕入れなくとも好みの部位だけを中間業者から手に入れることができるようになったのです。

ここまでが一頭買いについてのおおまかな説明になります。

次に最初に僕が一頭買いが買う側からすると意味がないと言い切った理由について、買う側、売る側のメリット・デメリットという視点から説明します。

一頭買いのメリット

買う側目線

一頭買いの説明に関しては上で説明した通りです。

そこでなんですが一言も買う側目線の説明が一切ないのにお気付きの方もいるでしょう。

そうなんです、一頭買いというものは買う側からするとメリットと言えるほど、大きなメリットは存在しないんです。

一頭全てを扱える店ということで技術的な信頼感はもてそうですが、実際はどうでしょう。

想像してみてください。

「いろんな部位をあつかう店」と「ある特定の部位のみに特化した店」

どっちが商品に対してこだわってたり、詳しそうですか?

僕は後者だと思います。

確かに全ての部位を極めたようなとんでもない技術を持った人は存在します。
そういう人から買えたり、料理してもらえるならそっちが魅力的ですよね。

でも肉業界はけっこう人材不足です。それなりにお肉を扱える人もいれば、新人もいます。

そういった人たちは正直一頭全てを扱えるレベルにまで達していません。

中途半端な知識と技術でやれるほど一頭買いは甘くないんです。
僕も、まだまだ「一頭買いだけでやれ!」って言われたらごめんなさいするレベルです。

ただメリットをあえて言うなら、「この店なんか凄そう」という期待をもてるくらいでしょうか。

実際ほとんどの方が一頭買いをうたう店にはいるときは、そんな期待を胸に秘めて入店するパターンが多いと思います。

これ自体別に悪いことではないと思います。期待感をもってお店にはいるのはワクワクして楽しいことですからね。

売る側目線

一方で販売する側のメリットです。

昔は一頭買いをしていれば価格の面で有利になることはありました。

でも今は真空パックの技術が発達したおかげでスケールメリットからくる価格差というものはほぼなくなったのです。

実際僕も一頭で購入することもありますが、パーツで買うときとほぼ仕入れ値はかわりません。

むしろ手間賃や人件費がかかるぶん、交渉次第でパーツ買いのほうが安いことまであります。

でもやっぱり、それをするところがある以上メリットもあります。

それは仕入れる肉の品質面です。

本当に一頭買いをしているのなら仕入れ担当の人がちゃんといて、実際に自分の目で枝肉を目利きして仕入れているはずです。

こうすることで、そのお店の基準にそったものだけを仕入れることができます。

パーツ買いをすると、どうしても仲卸業者が選んだものを仕入れることになりますから、めちゃくちゃ仕入れにこだわる人はこれができなくなります。

つまり販売する側のメリットは、可能な限り自社基準にそぐわない肉を仕入れるリスクを減らすことができるということです。

あとは、店舗のブランディングができることでしょう。
こっちの理由で一頭買いとうたっているところのほうが多いかもです。。
とりあえず、他と差別化できてドヤれるといったところでしょうか。

一頭買いのデメリット

買う側目線

次に買う側のデメリットを見て見ましょう。

メリットはほぼありませんがデメリットは無視できないものがあります。

一頭買いのみをしている店は欠品をおこしやすいということです。

一頭買いを行う店は、全ての部位を1頭単位で仕入れます。
するとどうなるかというとよく売れる部位は先に無くなって売れない部位ばかりが残ってきます。

例えば夏場は焼肉がよく売れるからバラ肉が売れて、すき焼き用がメインの肩ロース肉が余るといった現象です。

なので、この前行った時にはあったのに、今回はないという現象が頻繁におこってしまうわけです。

そうなると、もうそのお店はアテにできませんから、別の品揃えが常に安定したお店に行こうという考えになるのは自然なことですよね。

売る側目線

そして売る側のデメリットです。

これは買う側のデメリットと内容的には同じなんですが、買う側の視点で見てみましょう。

上で書いたように欠品が多くなるとお客さんは離れます。

そこでどうするかというと、欠品させないためにも売れた部位のみを補充するためだけにまた牛1頭を購入するんです。

もう、こうなると最悪です。売れない部位はどんどん冷蔵庫にたまって不良在庫になり、あげくのはてには期限切れなんてことも起こり得ます。
利益なんかはもちろんでません。

このデメリットは肉屋として致命的です。

このデメリットを見ると一頭買いをする店なんて存在するの?ってなっちゃいますよね。

その疑問にもお答えします。

一頭買いエピソード

ここまで、1頭買いに対してどちらかというとネガティブな印象を与える記事になりました、実は何を隠そう僕は1頭買いの店で働いていました。

正確には、1頭買いしていた、ですが。

そして現在進行形で1頭で仕入れることもあります。自分のところで牧場をやっているので、そこで育てた牛を販売するときは自然と一頭買いと同じことになります。

正直1頭買いはきついです。以前の会社では仕入れ担当のお偉いさんがいて、気に入った牛をどんどん買って各店舗に、さあ売ってくださいと言うわけです。

店舗で在庫管理を任されている人は僕を含めて、みんなこう思っていました。

「前仕入れた肉あまってるのに気分よく買うんじゃねーよ」と、、

毎日毎日、「このお肉どうやって売ろう、安く売ることはできても利益はでないし・・」
という葛藤との戦いでしたね。夢に見るくらい悩んでました。

そうまでして一頭買いを続けるのは、やはりメリットのところでお伝えした、自社基準の商品を仕入れるためだったのですが。。

もう一度言います、一頭買いはめちゃくちゃしんどいです。

そのへんの焼肉屋さんが、一頭買いとうたっているのを見てにわかに信じられないほどです。
まぁ、おそらくそういったお店は母体がしっかりしていて、余った部位を別の店舗や別の形態で売るルートをもっているんでしょう。

一番ベストな販売スタイルの店とは

じゃあ一番ベストなスタイルのお店って何なんでしょう?

ここまで読んでくれて、お気づきになった勘のいい人もいるかもしれません。

それは、一頭買いとパーツ買いを組み合わせたスタイルだと思います

一頭買いで基準にそったものを仕入れ、なくなった部位はパーツ買いで補う。

そうすることで、品質にこだわった商品を置きながらも、なくなった際には代用のものでお客さんのニーズに応えれますからね。

一頭買いをうたっていても実際はこうしているお店がほとんどです。

一番大事なのはお店のこだわりよりも、お客さんの求めに応じることですから。

まとめ

最後にもう一度言います。

一頭買い自体には買う側から見てメリットは存在しません

ただ、それぞれのお店の事情もありますから、一頭買いを否定するつもりは毛頭ありません。
僕のお店でも一頭仕入れやってますからね。

で、結局何が言いたいかと言うと、一頭買いという言葉に踊らされずに、
そのお店が何に対してこだわってやっているのか(例えば仕入れの基準で質のいい脂の牛が欲しいから一頭買いをやっている等)という裏側の意図まで見て欲しいということです。

そうすれば、きっと本当にいいお店というものに出会えるはずです。こだわって一頭買いをする店にはちゃんと理由があります。

世に溢れる一頭買いの文字、この記事を見てもらえたことで、少しでも見方が変われば幸いです。

では、今回はこのへんで失礼します。最後までごらんいただきありがとうございました!

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